遺言書なし・不適切な遺言書で困った事例

実際の事例を加工しています。

1.相続で揉めなくても遺言書がないと困る事例

母と二人で暮らしていた父が亡くなりました。

母、私、弟が法定相続人で、父の両親、祖父母、兄弟は既に亡くなっています。

私と弟は家族も含めてとても仲が良いので、遺言書がなくても困ることはないと思っていました。

父は会社を経営し、借金があったので、会社を引き継ぐ母のみが相続し、私と弟は相続放棄をしようと考えていました。

葬儀代、母の生活費、会社の運転資金のために父の口座から預金を引き出そうとしましたが、田舎町だったことから、父が亡くなったことを銀行も知っており、口座が凍結されていました。

銀行の方にどうしたら引き出せるか聞いたところ、母が引き出すことについての相続人全員の同意書か遺産分割協議書が必要だと言われました。

しかし、同意書や遺産分割協議書にサインをすると相続放棄ができなくなると聞いていたので、「遺産分割前における預貯金債権の行使」をして一部を引き出しましたが、それ以上は相続放棄するまで引き出すことができずにとても困りました。

コメント

相続放棄の事例なので、ご自身には関係ないと思われがちですが、相続人の誰かが「音信不通(行方不明)である」、「外国におり、書類のやり取りにかなりの時間がかかる」、「認知症」、「コロナで入院している」という場合でも、(相続人の中で揉めることがないとしても)同意書や遺産分割協議書の作成が非常に困難になる可能性があります。

お父様が、「預金をお母様に相続させる」という遺言書を作成していれば、いずれの場合でもスムーズに全額引き出せます。

2.適切に書かないと遺言書が無駄になりかねない事例

母と二人で暮らしていた父が亡くなりました。

母が亡くなりました。父は既に亡くなっており、相続人は子のA、B(私)、Cの3名です。

母は亡くなる際、「Dマンション●号室」に居住し、E銀行に300万円の預金がありました。

母は自筆の遺言書を作成し、そこには「このDマンションをBに相続させる」、「預貯金500万円をCに相続させる」と記載されていました。

母が遺言書を作成した当時はE銀行に500万円の預金がありました。

私とCは、遺言書を使ってマンションの移転登記とE銀行から預金の引き出しをしようとしましたが、登記所は移転登記をしてくれませんでした。E銀行は最終的には引き出させてくれましたが、かなり時間がかかりました。

コメント

ご遺族の方は亡くなられたお母様のご事情を良くご存知なので、遺言書に記載されている「このDマンション」が、お母様が居住していた「Dマンション●号室」であることが明らかだと思われるのではないでしょうか。

しかし、形式的な審査しかしない第三者の登記所には、「このDマンション」は、どこの「Dマンション」の「何号室」のことを表しているのかが分からないので、移転登記をすることに消極的になります。E銀行も同様で「500万円の預金は他行のことではないか」と考えると、引き出しに消極的になりがちです。

遺言書は単に書けば良いだけでなく、どの財産を誰に渡すのかが、誰が見ても分かるように書くことが重要です。弁護士にご相談くだされば、この点にも十分に配慮した遺言書を作成できます。

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