AIの生成物に著作権や特許権は発生するか

弁理士の板垣忠文です。第3回目に引き続き、このコラムを担当させて頂きます。
今回は、五十嵐弁護士より「AIの生成物(AI=人口知能によって創作されたもの)に著作権や特許権は発生するか」というお題を頂戴しました。

AIと著作権等が関係する場面としては、大きく分けて

  1. ①「AI開発・学習段階」
  2. ②「生成・利用段階」
  3. ③「AI生成物に著作権等は発生するか」

という3つが考えられるのですが、今回は③に関するもの、ということになります。

何故このような議論が生ずるかなのですが、まず、現行の著作権法は、その保護対象である著作物について、
思想又は感情を創作的に表現したもの であつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)と定義しています。

従って、AIのように自ら思想・感情を持たないものが「自律的に」生成したもの(例:人が何らの指示を与えず、又は簡単な指示に留まるような場合。単に利用者が「生成」ボタンを押したに過ぎないなど。)については「著作物」にはあたらない、と考えられています。

他方で、政府の「知的財産推進計画2023」によれば、「AI 生成物を生み出す過程において、AI利用者に創作意図があり、同時に、AI 生成物を得るための創作的寄与があれば、利用者が思想感情を創作的に表現するための『道具』として AI を使用してその AI 生成物を生み出したものと考えられる」とし、「AI生成物」が「著作物」となる余地を認めています。しかし、具体的にどのような創作的寄与があればよいのかについては、現状、「AI の技術の変化等を注視しつつ、具体的な事例に即して引き続き検討することが適当」とするに留まっています。

また、「特許権」の保護対象である「発明」についても「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のもの」(特許法第2条第1項)と定義されており、この「技術的思想の創作」が出来るのは、現行法上「自然人」のみであると考えられています。現に、特許出願の願書には「発明者」の「氏名」を記載することとなっており(特許法第36条第1項)、令和3年7月30日付けで特許庁ホームページに公表された「発明者等の表示について」という記事においても「発明者の欄には、従前より、発明をした自然人を記載すべきものとして扱っています」とされ、AI等を含む機械を発明者として記載することを認めていません。

尤も、2024年4月21日付の読売新聞によれば、特許庁の有識者委員会において「人工知能(AI)を発明者と認めることの是非」について調査を行ったとの報道がなされています。この調査に回答した企業・団体の8割がAIを発明者と認めることについては「問題をもたらす恐れがある」と懸念を示してはいますが、有識者委は「AI関連技術は急速に発展する可能性があり、必要に応じて適切な保護のあり方を検討する」と結論づけており、特許権・著作権とも、今後の議論の進展を注視する必要がありそうです。

板垣国際商標特許事務所
所長 弁理士 板垣 忠文
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2024年4月22日執筆
〈注〉
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